【言葉】


【言葉】
掌編/SS風/ギャグ・コメディ
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【言葉】

ヨハン
「プハァ〜! 平日の昼間に仕事もせず酒場で飲む酒はうまいぜ!」

フィリッパ
「まさか私達が朝起きて酒場に行く直前に50人もの冒険者が突然押し寄せて、依頼をひとつ残らず取っていってしまうとは思いませんでしたね!」

冒険者
「俺本当ビビりましたよ! 見た事無いヤツが酒場にめっちゃ居てヤバかったッスね! 俺思わず『誰コイツ!?』とか言っちゃいましたもん!」

カナメ
「ヒマでもこうやって、酒場の空いたテーブルにみんなで座って喋ってるのもたまにはいいよね、ミハちゃん」

ミハ
「そうだな……」

ミハ
(みんなで座って『喋ってる』、か……)

ヨハン
「そうそう、俺さぁ、こないだゴブリン退治に行ったんだけどさぁ……」

ミハ
(そういえば各地の街の色々な所で、こんな風に冒険者達が喋ってるのをよく見かけるが……そもそもなぜみんなお互いに会話が可能なんだ?)

ミハ
(冒険者といえば『黄金の門』を通って異世界からやってきた人が少なからずいるはずだ。そうなると言葉は普通なら通じないはずだ。私やカナメが元々いた世界ですら、隣の国の人間との意思疎通すら難しいありさまなのだから、世界が違うとなれば言語体系もまるっきり異なっていてもおかしくない)

冒険者
「えぇっマジっすか!? マジパネェっすね! そりゃ無理っすわ〜」

ミハ
(この男も話を聞く感じ、私やカナメと同じ世界の、2〜3百年くらい前のインドあたりの出身のようだが、日本人の我々と普通に会話できている……)

ミハ
「……なぁ、カナメ」

カナメ
「ん?」

ミハ
「カナメはこの世界に来てから、『言葉が通じない』みたいな経験をした事などはなかったか?」

カナメ
「あ〜……そういえば無いかも……。私、初めてこの世界に来た時にみんな日本語しゃべってるのが不思議だったんだよね……。異世界から来た人達もみんな日本語しゃべってるし……」

カナメ
「あっ、でもなんか『アルタイル』とかいう今話題の異世界人? の人はなんかカタコトじゃなかった?」

ミハ
「そういえばそうだな……。いや、待てよ? 『アルタイル』は確か『黄金の門』を通らずにこの世界に来たという噂がある……」

カナメ
「『黄金の門』を通った人は、この世界の人と言葉が通じるって事?」

ミハ
「ああ。ひょっとしたら『黄金の門』には、異なる言語を聞き取れて、話せるようになる特殊な力があるのかもしれない。だが……」

フィリッパ
「すみません店員さん、コーンスープ1つお願いします」

ミハ
「カナメ、今フィリッパ殿が『コーンスープ』と言ったのは不思議じゃないか?」

カナメ
「どういう事? コーンスープなんて普通じゃない?」

ミハ
「『コーンスープ』はもともと日本語じゃないだろう? 異なる言語が日本語に置き換えて聞こえるようになっているのなら、『コーンスープ』ではなく『トウモロコシの汁物』などという風に聞こえているはずだ」

カナメ
「あっ、確かに……。うーん……本来の日本語よりもよく使われてる外来語があったら、そっちに置き換えられるんじゃない?」

ミハ
「うむ。それは合点(がてん)がいくな。となると……」

ヨハン
「俺も何か頼むかなぁ。でも今日は動いてないしあんまり腹減ってねえんだよな」

ミハ
「ヨハン殿、そういう時はベジタブル系のディッシュでアパタイトを満たすコンセプトにしたらどうだろうか?」

ヨハン
「うん。……えっ?」

カナメ
「えっ……?」

フィリッパ
「……?」

冒険者
「……?」

ミハ
「……あ……あれっ? 通じてない……?」

カナメ
「えっミハちゃんどうしたの急にわけわかんない事言って……なんか手もろくろを回してる感じのポーズになってたし……」

ミハ
「えっ……い、いやこれはその……普段使ってる言葉を外来語に置き換えてみても通じるかと思って……」

ヨハン
「ええと……今のはどの辺の言葉? どういう意味……?」

ミハ
「あっ……ああ、いや……。今のは『野菜系の料理で食欲を満たす方向にしてみては?』と言いたかったんだ……」

ヨハン
「あー……そうだな。何かサラダでも頼むか」

冒険者
「俺一回、野菜に虫ついてた事があってからチョイ苦手なんすよねぇ。ワンチャン火が通ってりゃいけるんすけど」

ミハ
(ううっ……意図せず空気を凍りつかせてヘンな汗をかいてしまった……! これは夜中に思い出して布団の中でもがき苦しむヤツだッ……!)

カナメ
「よくわかんないけどミハちゃん、多分一般的に定着してる言葉じゃないと通じないんじゃないかな……」

ミハ
「そ……そうだな。……ん? 待てよ? 例えば甘いお菓子の事を『スイーツ』と言いかえる人が増えたのは割と最近だが、普段から『スイーツ』という言葉を使っている人は、別の言語の同じ意味の言葉を『スイーツ』と聞き取り、『スイーツ』と言う言葉に馴染みのない人は、その意味の言葉を『甘いお菓子』などという言葉で聞き取るのか?」

カナメ
「あっ……確かに……うーん……。そういえばそもそも、男の人の口から『スイーツ』っていう単語が出る事ってあんまりないよね……」

ミハ
「うーむ……認識の持ちようによって単語の置き換わり方が変わるのだろうか……。……だったらもし本来の日本語が外来語に置き換わるように自己暗示をかけたら、みんな外来語を喋りだすようになるのか?」

カナメ
「またなんかヘンなこと試そうとしてる……」

ミハ
「ひとまずよく使いそうな言葉を……甘いお菓子……スイーツ……スイーツ……、方向性……コンセプト……コンセプト……モニョモニョ……」

フィリッパ
「あっ、私、食後にスイーツ食べますけど、皆さんも頼みますか?」

ミハ
「ああ……ん? スイーツ?」

ヨハン
「たまにはスイーツもいいな! 俺も何か食うかな」

冒険者
「俺ここにまだ来たばっかなんでスイーツ頼んだことないんすけど、オススメとかあるっすか?」

ミハ
「見ろカナメ! みんな『スイーツ』って言い出したぞ!」

カナメ
「えっ……? みんな『甘い物』って言ってるけど……」

ミハ
「えっ!?」

ヨハン
「いいウェザーだし、スイーツをイートしたらタウンに出てアドベンチャーグッズでも整えに行くか?」

フィリッパ
「いいですね! 私、ちょうどニューブーツがウォントだとスィンクしてたんです!」

ミハ
「うっ! みんなルー○柴みたいになってきた! どうやって戻すんだこれ!」

カナメ
「誰も○ー大柴みたいな喋り方してないけど……」

冒険者
「マイセルフもタウンでサムシングをショッピングしたいっすね!」

フィリッパ
「だったらエブリバディでゴーイングしませんか?」

ミハ
「やばいッ! みんなが何を言ってるのか全然分からないッ!」

カナメ
「ミハちゃんどうしたの!? エブリバディのトークがアンダァスタンできないの!?」

ミハ
「なっ!? カナメまでッ!」

ヨハン
「グッドアイディアだな! ミハとカナメちゃんもタイムがオープンならトゥギャザーしようぜ!」

ミハ
「うっ……うわあああああー!!!」

ミハ
「――――はっ!」

ミハ
「……夢か……」

 
言葉 終


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